泉州の味を守り、食と農の大切さを伝えたい

 太陽の光をいっぱいに浴びた露地(ろじ)栽培の泉州キャベツ・泉州たまねぎが美味しいと評判で、地元だけでなく全国的にも有名になった射手矢(いてや)農園。代表の射手矢康之さんは、テレビや新聞・ラジオ番組などへの出演も多く、農を通して食の大切さを広めたいとさまざまな活動をしています。野菜と同じく人気のたまねぎドレッシング・スープの開発秘話も伺ってきました。
 

泉州産野菜の美味しさを知ってほしい

 「泉州には美味しいものがたくさんある。なのにそれが全国だけでなく地元にもなかなか伝わらない。泉州野菜を作る地元農家が年々減っていくのが残念でならなかった。先祖代々から農業で受け継いできた土地を守り、もっと泉州の味を広めたい」。そのために何かできることはないかと考え、自分が泉州の味を広めていこうと決意したそうです。
 地元・泉佐野市の協力を得て、耕作放棄された土地を借り受け、泉州キャベツや泉州玉ねぎ、米などを生産。その作付面積はキャベツが10ha、玉ねぎが12haなど、15年前の6倍になりました。

射手矢農園キャベツ
 
 泉州は北海道と並んで、日本での玉ねぎ栽培発祥の地と言われています。泉州では最盛期の昭和35年には約4000haまで栽培面積が増加しましたが、現在は60ha余りしかありません。たまねぎの「産地」と呼ぶにはあまりにも狭いのが現状です。また、淡路玉ねぎは泉州玉ねぎの栽培技術を導入して始まりました。味では負けていないのに関西ではたまねぎと言えば淡路島と思われていることが悔しかったそうです。
 

熱い想いが広げた人のつながり

 泉州の美味しい野菜を知ってほしいという熱い想いから、毎年松波キャベツの収穫祭を行っている射手矢さん。食べてもらうと芯まで甘いと評判で、いくつもの飲食店からうちの店で使いたいと申し出があったそうです。キャベツの美味しさが評判となり、今年は一般消費者の方から、飲食店、野菜ソムリエ、農家、流通関係や企業など様々な業種の方まで、約150人の参加がありました。こうして人のつながりが広がっていくことはすごくうれしいと笑顔で話してくれました。

 そのつながりの中で、新商品の開発につながったものもあります。

 ある時、購入した玉ねぎで手作りドレッシングを持って来てくれたお客さんがいました。玉ねぎは旬の時期が美味しい野菜で、その美味しさを年間を通じて味わってもらいたいと考えていました。ドレッシングが自分で作れることを知り、自身でも作ってみようと考えたのが、たまねぎドレッシング開発につながりました。

射手矢農園たまねぎ
 
 米油では世界シェア1位を誇る和歌山県の築野(つの)食品工業株式会社さんに相談したところ、ハグルマソースでおなじみのハグルマ株式会社さんを紹介されたそうです。それからたまねぎドレッシングの開発が本格化しました。
たまねぎの配合量やノンオイル、無添加など、様々な試行錯誤を重ね、味を確定するまでに1年の歳月を費やしたそうです。1回だけでなく、2回3回と買っていただける味を追求しました。そしてようやく100%泉州産たまねぎを使った、たまねぎドレッシングが完成しました。ドレッシングに使うオイルは、不飽和脂肪酸のオレイン酸やリノール酸を多く含み、風味がまろやかで油酔いを起こしにくい米油です。

射手矢さんちのたまねぎドレッシングは2012年、大阪産(もん)五つ星の大賞に選ばれました。

長左エ門 射手矢農園
 
 そして、淡路島産のたまねぎを使用した玉ねぎスープを多く手掛ける、八尾市の株式会社テイスティさんが、大阪の会社なので大阪のものを使って作りたい。そう考え射手矢さんに依頼されて完成したのが「射手矢さんちの泉州たまねぎスープ」です。
 いただいた玉ねぎスープを事務所に帰ってから飲んでみました。玉ねぎの香りがしっかりついた、コンソメベースのコクのある美味しさで、もっと飲みたい!と思いました。
 

食育を通して農業の大切さを伝えたい

 食品の製造から、企画・販売まで手掛ける射手矢さんが次に目指すのは食育だそうです。食は人が生きていくために一番根底にあるもの、農業はそれを担っている。その農業をおろそかにしてはいけない、と力強く語り始めました。 「今流行りの水耕栽培あるでしょ、あの野菜はサプリメントと同じなんですよ。そればかり食べてると、身体が楽をするようになって、ちゃんとしたものを食べた時に栄養を吸収できない身体になってしまうんです」それまで穏やかに話されていた射手矢さんが「人が健康に生きていくためには、ちゃんと太陽の光を浴びたもんを食べんとあかん!」と語気を強めたこの一言がとても印象的でした。

長左エ門 射手矢農園
 
 子供の頃からきちんとしたものを食べて、それが分かるように育ってほしい。たとえば、お米を買ってくれた人に、野菜をおまけに付けたりして「強制食育」と名付けて実行しています。また先日は、ぐるなび主催のキッズマルシェにも参加しました。子供たちに、収穫から販売、そしてシェフと一緒に調理して食べるという食の体験をしてもらいました。今後はこのような機会を増やし、食育の面からも、食への関心を高め、農業の大切さを伝える活動に取り組んでいきたいと意気込みを語ってくださいました。強い信念と熱い想いがあるから、愛情のこもったいいものを作ることが出来るんですね。射手矢農園さんが今後どのような活動をされるのかも楽しみです。

 長左エ門 射手矢農園  詳細情報

取材協力:長左エ門 射手矢農園
取材日:2014年4月17日
取材・撮影:石川いづみ

長左エ門 射手矢農園

江戸時代後期からつづく、現在10代目の農家さんが直接手掛けた「たまねぎスープ」は自分用はもちろんのことながら、手土産としても人気!

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