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泉佐野市日根野に北庄司酒造店という大正10年(1921年)創業の酒蔵があるのをご存知ですか?鎌倉時代より日根野荘園として栄えた由来により”荘の郷”と命名した看板商品を中心に美味しい地酒を造っています。世界的な和食ブームに乗り、海外では日本酒人気も高まってきています。こだわりの日本酒を地元の人にも知ってもらいたいと奮闘している、次期四代目の北庄司知之さんにお話を伺ってきました。
米にこだわり“佳い酒“を作りたい
知之さんのお父様で三代目の北庄司貞久さんは少量でも”佳い酒”、”美味しい酒”を造りたい、と言う気持ちから、それまで大量に生産していた一般的なお酒より、長年伝承されてきた方法で少量でも美味しい酒造りを目指すようになりました。
酒蔵入口の社名看板には以前造っていた清酒“都娘”の銘
酒造りに欠かせないのはお米と水。北庄司酒造店では特にお米にこだわっています。
酒造りには酒造好適米(酒米)という、食用米とは違う酒造りに合った品種の米を使います。食べておいしいお米は、酒造りに使うとそのうま味が雑味になってしまうそうです。有名な酒米では“山田錦”はよく耳にしますね。日本酒は精米の度合いによって、大吟醸や吟醸といった酒の種類に分かれます。
まずはよく洗って精米した米を、大きな釜の甑(こしき)で蒸しあげます。蒸すことで麹菌(こうじきん)がつきやすくなるのです。
種麹を振りかけて作った麹
蒸した米をさましてから、種麹(たねこうじ)を振り掛けていきます。種麹は緑や黒い色をしているのでまるでご飯に海苔のふりかけをかけたようになるそうです。それを混ぜ合わせ麹造りをします。3日ほどで麹ができると、さらに蒸し米(掛け米)と水を足してタンクで仕込みます。よくある紙パックなどの格安のお酒は掛け米に酒米ではなく食用米を使っていたり、初めから食用米で酒を造るため安いそうです。
仕込み蔵には身長166cmの私より大きなタンクがたくさん並んでいました
ちょうど酒造りの時期に入っていたので、仕込んで2日目と5日目のタンクを見せていただきました。
2日目のタンクはまだ米の粒が、浮き上がっているのがはっきりと見てとることが出来ました。表面に浮いてくる米を鎮めるために、棒の先に木の板のついた“かい棒”で時々撹拌(かくはん)します。
仕込んで2日目のタンクはまだ米粒が確認できました
5日目のタンクを見せていただくと、ふたが開いた途端にふわぁ~っと鼻の奥まで何ともいいお酒の香りが漂ってきました。発酵が進んでいるので表面には、無数の泡がふつふつと小さな音を立てて現れていました。この音を聞いていると、お酒は生きた麹から生まれるんだな、と実感しました。この後何度か掛け米と水を足して仕込みます。この時に足していく掛け米も食用米ではなく酒米を使用しているので、美味しくて香りのいい”佳い酒”になります。
仕込んで5日目のタンクからはすでにお酒のいい香りがしました
こうして発酵させて20~25日でアルコール度数が18~19度の醪(もろみ)ができます。出来上がった醪を圧搾機でしぼると生酒と酒粕ができます。袋状で何重にも重なっている白い特殊な布の間に酒粕が残ります。強力な力で圧搾するので布に挟まった酒粕は板状になります。酒粕の表面のザラザラの模様は、この圧搾機の布の模様だったんですね。
酒粕のかおり漂う焼ねぎ味噌は絶品
北庄司酒造店では酒造りでできた酒粕を使った「焼ねぎ味噌」を販売しています。奈良のお味噌屋さんとのコラボで作られた商品です。試食させていただいた時に、酒米だけでできた酒粕のいい香りと焼ねぎが味噌にマッチして、口の中に広がりこれでご飯3杯は食べられる!と思いました。酒の肴にそのままでも召し上がれますし、ご飯もすすむ一品です。
酒蔵で地域のつながりを広めたい
現在、酒蔵の入り口には酒の販売ペースや試飲コーナーも設けています。「今後はここのコーナーに、焼ねぎ味噌だけじゃなく、酒に関連した食品やそれ以外の商品なども充実させたいって考えてるんです。それで、もっとたくさんのお客さんに来てもらえるようになってほしいですね」と笑顔で語る知之さん。
北庄司酒造の次期四代目・北庄司知之さん
また3年前から広い敷地と酒蔵を利用して、毎年春と秋の2回、新酒の出来る時期に酒蔵祭を開催しています。「佳い酒を造っていくだけでは、なかなか広まらない、地元だけでなくいろんな人に知ってもらいたいんで開催しています。地域のつながりが希薄になっている今だからこそ、食と酒とイベントで地域のお祭り的な意味合いを持たせています」と話していただきました。知之さんは、酒蔵を利用して地域のコミュニティを広げたいと、将来を見据えた酒蔵のあり方についても考えて活動されています。
酒蔵祭りなどで解放される酒蔵2階の蔵しっくホールはグランドピアノも完備