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今、女性から人気をあつめている注染手ぬぐい「にじゆら」。大阪市の中崎町にある直営店には、伝統技術を使い色とりどりに染められた手ぬぐいや雑貨を求めてお客さんが遠方からも来られるそうです。実は、にじゆらの工場が堺市内にあるというのでその魅力を探ってきました。
家業を継ぐつもりはなかった二代目社長
伝統工芸の注染技術を使い、多くのファンを持つにじゆらを作りだした株式会社ナカニの二代目・中尾雄二さん。注染への熱い想いは人一倍持っている中尾さんですが、実は若いころは、家業を継ぐ意思はなかったそうです。
大学を卒業後、国内トップの家電メーカーに就職。1年目で営業研修にも抜擢されるほどの成績優秀でした。研修のため実家を出ていた時、家族がなくなるという突然の不幸に見舞われました。それ以前にも大学で下宿をしている時に、先代のお父様が仕事中機械に腕を挟まれるという事故にあいました。
「自分が家を出ると家族に不幸が訪れる…二度あることは三度ある。三度目は何が起こるかわからない。きっと自分は家に戻らなあかんのやと思たんです」。それがきっかけとなり中尾青年は家業を継ぐ決心したそうです。
株式会社ナカニの二代目・中尾雄二社長、俳優で名声優の森山周一郎さんを思わせる声がしびれます
中尾青年が社長に就任したころ、注染は伝統工芸品に指定されていました。その時「注染なんてやっていても食べていけませんよ」と言われている気がしたそうです。家業を継いだものの、染色業は決して楽な経営状態ではありませんでした。プリントと注染の競争、価格競争、同業者との競争…それでも注染を続けようと思ったのは、中尾社長自身も注染の伝統工芸士であり、伝統産業としての注染を残したい、職人の技を途絶えさせてはいけない、と強く思ったからです。
業界を疲弊させないためにも「職人がプライドを持って仕事ができること、工場が一番大事というビジネスモデルを作りたい」と考えたそうです。
注染手ぬぐい「にじゆら」の魅力
平成20年中尾社長は、これまでの染色業界では型破りともいえる工場独自のブランドを立ち上げ、直営店を展開しました。職人が色付けを考え、作りたい物を作る。それが注染手ぬぐい「にじゆら」です。注染とは白生地を特別な伝統的手法で染めていく方法です。注染の最大の魅力はプリントでは出せない「染料のにじみとぼかし」です。手作業だからこそ出せるにじみやぼかし、注染の魅力が生み出される製造工程を見せていただきました。
夏は暑く、冬は寒いなか職人さんたちが一色ずつ手作業で丁寧に染め上げていきます
1.糊置き(板場)
型はプリント型と逆で染めたくない部分が網になっています。白生地に型紙をはめた木枠をかぶせ、防染糊を木べらでむらなく塗りつけます。1枚塗るごとに、木枠を上げ生地を蛇腹折になるように折り返して、重ねます。また、木枠を乗せて同じ作業を繰り返します。型が1ミリでもずれると、きちんと染まらなかったり柄がずれるので一番肝心な熟練技術のいる作業です。
50年の熟練の技で糊置きをする盛田さん
2.注染(壷人・つぼんど)
蛇腹折に重ねたままの生地を染め台において、「ドヒン」という特別なじょうろで染料を注ぎます。必要なところだけ染まるように、防染糊で土手を作って、一色づつ染料を注いでいくのです。染料が下の生地まで行き届くように足元のペダルを踏んで真空ポンプで染め台の下から吸引しながら注ぎます。染料を流しては“シューシュー“と吸う音がひっきりなしにしていました。生地をひっくり返して、裏表で同じ作業を繰り返すので、糸までしっかりときれいに染まります。
防染糊で土手をつくり色別に染料を流し込みます
3.水洗い(川)
染め上げた生地を水を貯めた機械で左右に大きく振りながら防染糊や余分な染料を、丁寧にしっかりと洗い上げます。その後、ドラム缶ほどの大きさの脱水機で脱水します。
注染の後防染糊や染料をしっかり水洗しします
4.乾燥(伊達)
脱水後、自然乾燥か温風で乾燥させます。乾燥させる場所は壁の両側に渡した丸太に、生地を1匹(1反)ずつかけて干していきます。
下から見上げると生地がたなびく様子は圧巻です
下から見上げるとまるで天から光が降り注ぐように、布が幾重にも重なってたなびいている様子は圧巻です。
干す時に機械で生地を持ち上げるのですが、その足場は高さ7メートルの壁と壁の間に渡された丸太のみ。
中尾社長自ら生地を干すところを見せていただきました
実際に足場に立って下をのぞくとあまりの高さに足が震えました
工程を拝見させていただくと、一つひとつの作業が丁寧に進められ、大切に仕上げられていく様子にとても感動しました。長年受け継がれてきた職人技で作り上げられいくからこそ、生み出される魅力があるのですね。
湿度の高い日本の気候風土に合った切りっぱなしの木綿生地。デザインもポップなものから昔ながらの柄、季節に合わせたものまで幅広く展開しています。キッチン使いはもちろん、ブックカバーやインテリアとしても、にじゆらの魅力はどんどん広がります。
いつかは地元堺からにじゆらを発信したい
これまでの染色業界にはなかった、工場独自のブランドを立ち上げ自社で販売するというビジネスモデルを立ち上げた中尾社長。にじゆらへの愛情の強さが、にじゆら好きを引き寄せるのでしょうか、広報担当の藤浦さんは元は直営店に来るにじゆら好きのお客さんでした。工場見学にきて、さらににじゆらを好きになり、働きたいと申し出たそうです。
「大事なことはまず注染を知ってもらうこと、発信力の強い場所からにじゆらを知ってもらう。その上で工場の大切さを押し広め、職人のプライドを取り戻すこと、それを一番に考えてやっていく。そしていつかはね、地元のこの堺にも店を出したいと思ってます」と中尾社長。11月に東京にも新店舗を展開した「にじゆら」から目が離せないですね。