日本で唯一「鋏の伝統工芸士」が作る佐助の鋏

 堺刃物で有名な堺市に、江戸時代末期より鉄砲の製造技術を生かし、鋏(はさみ)作りを続けている鋏鍛冶『佐助』さんがあります。プロの植木職人からの信頼も大きく、オーダーから約1年半待ちという佐助の鋏。日本で唯一の「鋏の伝統工芸士」(国指定)が作る鋏に隠された秘密を探ってきました。

佐助
 

古来より受け継がれた鍛冶職人の技

 堺市では古くから、大仙陵古墳(伝仁徳天皇陵)造営に関連して、鍬(くわ)・鋤(すき)などの農具作りにより鍛鉄技術が根付いたと言われています。室町時代に火縄銃が伝来すると、鍛冶屋の多かった堺でも鉄砲の製造が盛んに。そのころから江戸時代末期にかけて、火縄銃の製造などで各藩の御用商として栄えていた廻船問屋の「住吉屋」が、佐助の前身です。

 江戸時代末期に銃の需要が減ると、十七代目当主の定次郎は住吉屋の将来を見据え、鉄砲製造技術を活かした鋏の製造をすることを決意。当時、見事な鋏造りをしていた種子島へ移り、研鑽(けんさん)を積むと、堺に戻り1867年「佐助」を創業しました。

佐助 平川康弘さん
 
 現在、佐助の五代目は平川康弘さんです。平川さんは、学生の頃は後継者として鋏作りを意識しながらも、夏休みに手伝いをする程度だったそうです。高校卒業後は、いったん外での経験を積んだ方がいいと、親戚の人に勧められて地元有名企業に就職。そこでも鉄に関係する仕事で、型鍛造(かたたんぞう)や旋盤(せんばん)などの作業に従事していました。しかし「図面通りにモノを作ることは自分には向いていない、やはり手作りがええなぁ」と気づき、あらためて家業を継ぐ意思が固まったそうです。
 

独特のプロペラの様なねじれを持つ刃

 佐助の鋏は30近くもある作業工程をすべて手作りで行います。製作には1週間前後かかるのですが、あまりの人気のため約1年~1年半待ちだそうです。注文を受ける顧客のうち9割がプロの植木職人。若い植木職人さんも一度使うと、やはりその切れ味と使い心地の良さから再び注文していただくそうです。

佐助
 
 鋏の形自体は他とかわりまりません、なのになぜ佐助の鋏がこれほど売れるのか?

佐助の最大の特徴は刃の内側がプロペラのようにねじれていることです。閉じている時、刃と刃には薄い紙が通るくらいの微妙なすき間がありますが、鋏を開き、ものを切る時には、刃と刃の当たる部分が点で生まれ、鋏を閉じていくと「切れるポイント」が移動、どこで切っても切れ味の良いことがその理由です。

佐助
 
 もちろん、このねじれもすべて手作業で叩きながら調整しています。削って調整をする方が簡単ですが、そうするとせっかくの鋼の部分まで削られてしまうため、叩いて仕上げていきます。この作業は、相当熟練の技術が必要です。鋏や包丁などの打ち刃物は、「硬い鋼」と「やわらかい地金」を打ち合わせて作るので、切れ味のよさと耐久性を備えています。鋼は炭素量が多ければ多いほど硬くなりますが、その分もろくもなります。鋏はその用途から、切れ味だけでなく同時に耐久性も求められるため、鋏に最適な炭素量を含む鋼を使用しています。

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 鋏の柄の部分の金色の美しい文様は象嵌(ぞうがん)といい、柄の部分にあらかじめ文様の形に溝を切って、金や銀の装飾をほどこす技法です。この手法は佐助の前身である「住吉屋」の頃に行っていた、火縄銃にほどこされた装飾の技法を取り込んでいます。また錆(さび)だしという、柄の表面に自然に錆を育て、錆の幕で覆う技法も取り入れています。これは刀の鐔(つば)や茶釜の表面に使われている技法で、使い込むほどにつやが出てきます。

 また漆塗仕上げを施した鋏は、美しい色合いで使い込むほどに味のでる風合いを楽しむことが出来ます。数々の賞を受賞した技術は、切れ味だけでなく伝統工芸品と呼ぶにふさわしい美しさをもあわせ持っています。

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世界が認めた伝統技術をより広く

 近年、世界的な盆栽ブームに乗って、日本の鋏の存在は世界に広まっています。海外での見本市や展示会にも精力的に出展。数年前から、フランスのベルサイユでも個展を開いている佐助の鋏は、絶大な人気を誇り毎回完売しています。世界の人々をも魅了する鋏を作る佐助の今後の目標は、フランス以外の海外でも個展や販路を拡大し、佐助の魅力を知ってもらうことです。

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 堺刃物に魅せられ、鋏鍛冶の仕事を「男の仕事です」と魅力を語るフランス人のエリック・シュバリエさんが、弟子入りし2年近くなります。後継者不足に悩む伝統工芸の世界で、伝統の技術を守りながら海外進出も視野に入れる佐助。世界に通用する作品を生みだすためにさらに研鑽をつむ佐助の鋏は、今後ますます世界に羽ばたいていくでしょう。

 佐助  詳細情報

取材協力:佐助
取材日:2014年3月19日
取材・撮影:石川いづみ

佐助

日本で唯一「鋏の伝統工芸士」(国指定)が作る佐助の鋏。刃のねじれが特徴で、使うほどに手になじむ鋏の使い心地を実感してください。

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